2015年11月28日土曜日

ルアー図鑑図鑑


 このシリーズを立ち上げる時にも書いたけど、昔からルアーの紹介記事が載っている本が好きだった。それはもうメーカーカタログでさえ何回も読んじゃうぐらいで、「釣りトップ」の昔から雑誌のルアーレビューコーナーも大好きだし、ルアー紹介がメインの「ルアー図鑑」的な本ももちろん大好物である。中でも、沢山のルアーがポッパーならポッパーというくくりごとに沢山写真と名前だけで紹介されているような形のものより、ひとつひとつのルアーについて、筆者の独断と偏見と愛と執着をもって解説が書かれているものが特に好きである。優れた筆者による解説は、その言葉がいわゆる「言霊」となり、読んだ人間が使う時にも、そのルアーに魂を吹き込むぐらいに霊験あらたかなものだと思っている。なんというか、グッと来る紹介文章が与えられたルアーはメチャクチャ釣れそうな気がしてくるモノだというのは、皆さんおわかりになるだろう。ルアーなんて本当はどれでも大差ないのかもしれない、でも「このルアーは絶対!」と思えるぐらいに絶賛されているのを読んだなら、その言葉を信じられたなら、投げるルアーに自ずと魂がこもろうというモノである。
 
 ということで、ネタがそろそろ無くなったところでもあり、また面白いブツを入手したら、その都度復活することとして、ルアー図鑑うすしお味、一応の最終回第26弾は、本シリーズの正式名称「うすしお味のルアーの楽しみ方図鑑列伝攻略法カタログ」の由来となった、4冊の「ルアー図鑑」について書いてみたい。いろんな人が「ルアー図鑑」を書いていてそれぞれ面白いけど、それらのなかでも特に気に入って何度も読みまくったのがこの4冊である。最近本をだいぶ自炊してデータ化したので4冊とも蔵から発掘できて本棚に収めたところ。流石にこれらの本は単なるデータが印刷された紙として以上の愛着があって裁断して自炊してしまうことはできなかった。


 「今思うとだまされていたのかも。でも後悔はしていないワ」
 不誠実な男への哀切をこめた女性の心情の吐露ではなく、若き日に、釣り飲み会の席で則さん山田さんの「ブラックバス釣りの楽しみ方」が話題になった時のナマジの台詞である。
 割とウケました。
 80年代にブラックバス釣りを始めたような人間にとっては、開高先生の「オーパ!」と共に良くも悪くも影響を受けざるをえなかったぐらいの、バス釣りの、特にこの本ではサーフェイスプラッガーと定義されているトップウォーターマニアにとっては教典といって良いぐらいの1冊。もしこの本がなかりせば、現在に連綿と繋がる「バスは水面で釣るのが最高に楽しいんです」という、一種の思想といっていいような嗜好、「ブラックバス釣りの楽しみ方」は生じえなかったのではないかとさえ思う。
 本書では「バストーナメントに象徴される、効率を重視した釣れればいいという釣りはちょっと違うんじゃないか」、「釣ることのプロセスと衝撃的な出会いを大事に楽しむべき」とかいうことが書かれていて、必ずしもトップ以外の釣りを全否定してもいないっぽいんだけど、読んだ人間の多くは「トップの釣りこそ最高、絶対!」という、水面至上原理主義に傾倒しがちであった。
 でもまあ、田舎のガキが5/8サイズのトップウォータープラグをオカッパリで投げたところで、釣れる魚など滅多にいるわけでなく、おりからのトーナメント指向の釣りからもたらされる、ワームやらクランクやらをつかった新たなテクニックを自分の釣り場に当てはめて釣果をのばしていくのが、心の底から楽しくて、まあ「別に水面にこだわる必要ないんじゃないの?」と思うに至るあたりで、冒頭の「だまされていたのかも」という心境につながっていくのである。
 ただ、釣りのプロセスと魚との出会いを楽しむべきというのは、今でも全くそうだと思っているし、思い入れを込めてこの本で紹介されているような、ラッキー13、タイガーなんかのヘドン勢やバルサ50なんかの「サーフェイスプラグ」をコレクションして、投げてみたりたまに釣れてみたりというのは純粋に楽しかったし良い想い出である。よしんばだまされてたんだとしても、後悔なんてする理由が無いんである。
 この本で紹介されているルアーはルアー図鑑としてはそれほど多くない。でも、それぞれのルアーについて1ページの上半分ぐらいが写真で、その下半ページぐらいが丸々思い入れたっぷりの解説やら、小ネタやら、則さん達のルアーに対する考え方なんかで埋まっていて、それらの綺羅星のようなルアー達を「崇拝」せずにはいられなくなるし、釣り人が道具に対してどのくらい愛着や思い入れを持って楽しんでいるのか、またそうするべきだということを私を含め多くのバスマンは学んだんだと思う。
 この本は装丁やら写真、文章やらもなんというか、それまでの釣りの本とは一線を画す格好良さがあって、「サーフェイスプラッガーのためのテクニカルスタディ」と副題をみると水面のバス釣りの技術指南書という位置づけだが、水面至上主義のバスマンに限らず、バス釣りをやる多くの人間達を虜にし、道具への愛着や思い入れから始まる釣りのプロセスの楽しみ方という、単なる技術を越えた部分までをまさに布教した教典であったと断言できる名著である。若い頃に出会えて良かったと心底思う。

 この本と同時代に書かれた「井上博司のブラックバス攻略法」と平成10年代に入って書かれた地球丸の「バスルアーカタログ」は実は構成が似ている。さらに言うならまとう空気感というか味わいがとても似ている。「バスルアーカタログ」はロッド&リール誌の名物企画だった「三匹が行く」の鉄平君がメインのライターとして企画したようだが、意識したのかしていないのかは別にして、「井上博司のブラックバス攻略法」の影響が色濃くうかがえる。
 どちらの本も、バス釣りに使われるルアーをスイッシャー、ポッパー、クランクベイト、バイブレーションなどの種類毎に分けて、その使い方やらを解説すると共に、代表的なルアーを数多く紹介している。
 どちらもコラム欄やルアーの楽しみ方的なメッセージも楽しめる読み物になっているが、なんといってもルアーの紹介部分が好き者にはたまらない。なるべく沢山のルアーを紹介するために、一つのルアーについてそれほど多くの紙面を裂くことができなかったという制約が、むしろ独特のリズムのある短く切り込んだ紹介文をかたち作っており、なんとも味わい深いのである。
 「攻略法」の方は当時新しい釣りだったブラックバスのルアーフィッシングというモノの格好良さや先進の気風を伝えようとしている入れ込み具合が感じ取れるんだけど、カタカナ用語が多用されていて、今読むとそういう時代感が逆にノスタルジックで懐かしい。
 「カタログ」の方は、きっと哲平君とかのライター陣は「攻略法」とかを読んで育った世代で、バス釣りの、ルアーの楽しさを伝えるための技術とか短文にルアーの魅力を詰め込む味わいとかにおいて影響を受けているんだろうと思うんだけど、30年だかの歴史を経て育まれた感性と経験の分が生かされたぶん確実に進化していてデキが良いように感じる。枕元において何度も読んだけど、何度読んでも楽しい「図鑑」になっている。
 「攻略法」の「インビンシブル(無敵)、まさにそんな感じだ。」とか「カタログ」の「T.D.バイブレーションにはワームさえも及ばない釣れる何かが備わっているようだ。」とか、もうそのルアーを投げずにいられなくなるような煽りップリ。
 ルアー図鑑としては奇をてらわず基本的なところを押さえた作りだが、いずれも「これぞルアー図鑑!」というお手本のような2冊だと思う。

 でもって、「B級ルアー列伝」。Dab氏が「こんなヤツらだけど興味ある方がいるのかな?と、軽い気持ちでホームページをたちあげた」のが、面白くって評判を呼び書籍化、第2弾も発売される人気作となった。
 なんというか、日本のルアー釣りを取り巻く文化も、こんなにも隙間産業的でマニアックなものが受け入れられるだけの歴史的な積み重ねと健全な楽しみの深化がはかられてきたんだなと思うと感慨深い。
 内容的には、イロモノ的だったり社運をかけた超絶技巧が時代の先を行きすぎていたりして、スポットライトが当たることなくタックルボックスの肥やしと化しているような「B級ルアー」に愛情あふれる解説を加えているのだけど、Dab氏の独特の軽妙で明るく楽しい書きップリに、クスクス笑ったりニヤリとさせられたりせざるをえないんである。
 ルアーの釣りの楽しさって、「こんなモノで釣れるんだ」という驚きって確実に要素としてあって、単に効率的に釣れればいいというモノではないと思う。
 ヘンテコなルアーたちを通じて、そういうルアーのおつゆたっぷりのおいしい部分の楽しみ方がこれでもかという感じで伝わってくる。Dab氏のルアーへの愛があふれている。
 バスルアーって特にいろんなヘンテコな工夫が生まれやすい分野だけど、他の魚を狙うルアーだってそういう遊び心的な部分は無ければウソだと私は思っている。
 シーバスルアーとか見てると高性能をうたい文句にした最新のルアーに流行の中心があるように思うけど、そんなのあんまり気にしなくてよくて、単に釣れればいいのなら、例えば自分のスタイルなら堅くフラットラップとかFマグとか投げてれば良いんだろうけど、トップでも釣りたいし(もちろん効果的でもある)、ロングAとかインビンシブルとかも使ってみたいし、この秋は残念ながら釣りに行けてない状況だけどウインドチーターミノーとかも試してみるつもりで用意していたりしていた。そういう、ルアーをあれこれ選んで楽しむ楽しさってやっぱりルアー釣りの楽しみ方の本流だと「列伝」を読むと改めて分かるところである。タックルボックスにゴチャゴチャとあるルアーを選ぶ楽しさって最高だと思うよネッ!てところである。

 
 ルアー図鑑うすしお味でも、これまでいろんなルアーを力一杯紹介してきたところだけど、もし皆さんにも楽しんでいただけたのなら幸い。
 きっとどこかのマニアックな釣り人がクスッと笑ってくれたものと確信して一旦筆を置きたいと思います。どうも皆さんお付き合いありがとうございました。書いててとても楽しかったです。

2 件のコメント:

  1. 「ルアー図鑑うすしお味」最終回ですか。
    楽しませてもらっているので面白ネタでの復活を楽しみにしています。
    私もルアーに関する参考書はいろいろ持っていますが、バス釣りの本を1冊挙げろと言われれば「ブラックバス釣りの楽しみ方」を挙げます。
    理由はナマジさんと同じで、騙されたけど後悔してないワです。
    あんなロッドワークやらスプールを親指で回したりせんやろうというのは実際に自分でやってみて思いますし、ビデオに登場してきた則さんが釣る姿を見て、ん??と思ったりします。
    多くのバスマンが信じて夢を見させてもらった偉大な本。
    中学生の頃に近所の本屋で取り寄せてもらったことを今でも覚えています。
    この本に出会わなければここまで釣りにはまっていたかどうか・・・
    則さんが天国で舌を出して笑っているような気がします(笑)

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  2. おはようございます

     実際につかわんようなルアーやらは買わないようにしようと、家の蔵の釣具の増殖ぶりを見るにつけ誓いを新たにするのですが、釣り具屋で変なルアーとか見つけるとあっさりその誓いを破ってしまうので、またそのうちネタになるようなルアー見つけたら書くことになると思います。世の中には変なルアーも愛すべきルアーも沢山あるし生み出され続けてますからね。また読んだってください。

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