2025年8月23日土曜日

従来型PENN両軸機の裏技

左通常、右裏技
 両軸受けリールは場合によっては”ゴリ巻き”が可能なリールだと何度も書いてきたところではある。ただ、その場合一定の制限があることは気をつけておくべきだろうと思う。いくら低速機でパワーがあるリールだとしても、例えば大型のトローリングリールを手持ちで扱おうとすると普通は巻けない。巻けないはずなんだけど繁殖地でホホジロザメに位置情報やら水温やらの情報を記録するいわゆるデーターロガーを取り付けて放流する研究者達が、手持ちというかバットを脇に挟んだトローリングタックルでホホジロザメとしては小型とはいえ200キロに達するかというような魚をゴリゴリ寄せてる映像を見て、さすが米国民は”パワーこそ力”のゴリマッチョ、とても真似できんと呆れると共にまあ200キロのサメでも竿とリールであげられんこともないんだなと認識したしだいである。

 端的に言って、固定できてなくてグラグラの状態の大型の両軸受けリールは重いので重力に引っ張られて下向こうとするので、それをまともに上に保持したうえでハンドル回さなきゃならなくなってしまい、デカい魚が引っ張ってる状態でとてもそんなことやってられないのである。

 両軸受けリールはひっくり返らないように上下が固定されていないと巻きにくい。

ジグマスター、投げるときの指の位置
 それはナニも大型のトローリングリールに限らず、ルアー投げるのに使うベイトキャスティングリールも含んで両軸に共通する。って書くと「オレ、ベイトリール使うときにファイティングチェアーの竿受けに十字切った竿尻突っ込んだりもしてないし、竿掛けで船縁に固定したりもしてないぞ?」と思うかもしれない。上下を固定っていうとそういう印象を受けるかもしれないけど、ベイトキャスティングリールでもみんな上下ひっくり返らないように固定して使ってるはずである。道具は使わずパーミングなりトリガーグリップに指かけるなりあたりまえにしているだろう。従来型PENN両軸でもサーフリールに分類されるようなジグマスターやらスクイダーやらはパーミングしやすくはないけど、左手で側板の方を固定することができるのでギリギリ道具は使わなくてもなんとかなる。ぶっちゃけこの大きさならロッドのフォアグリップ握ってのファイト時にもしっかり握っときゃそうはひっくり返らないぐらいに固定できる。

 しかしこれ以上大きくなって、従来型PENN両軸機でもセネターの4/0以上とかになると、道具無しではどうにも巻きにくくなる。最低限竿尻に十字切ってあって、ジンバルの金属棒に突っ込んで固定しないとどうにもならんだろう。ただ、さらに竿尻に加えてハーネスで背中というか腰からぶら下げたりを併用すると、ファイティングチェアーなど使わないいわゆるスタンダップファイトで、10キロ以上のドラグ値が余裕でかけられるようになったりする(写真では背景がごちゃついていて見づらいかもだけど、ハーネスで吊した9/0セネターで10キロのダンベルをぶら下げている)。そこは”さすPENN”でセネターでも4/0以上からハーネスで吊す用のリングがフレームの上部に設けられている。逆に3/0以下のセネターにはリングはない。そのクラスのライトタックルで狙う魚とのやりとりにはリール吊すひつようなないという判断なんだろう。まあ3/0にはあっても良い気はするけどね。アメ人基準ということか。

 で、当然ながら「そんならリール下に付ければ良いじゃん」って釣り人は考える。チャーマス北村氏も、リョービの「マーフィックス」あたりを使ってて、上付きのリールは使いにくいのでどっかで下付きの両軸受けリール作ってくれないか?なんならオレが図面描いてもいい、とか書いてたように記憶している。下に付けるとギアが1枚増えるけどまあ回転軸90度変えろとかいうよりは簡単だろうと思う。両軸じゃないけど片軸では下に付けるリールとしてチヌ用下付け片軸機とかダイワの「バイキング」とかの前例もあるのでできなくもないはずである。それらにはドラグがなくてムーチングリールとかの”センターピン”系ダイレクトリールの発展系だけどあれにドラグ付けてくれって話。まあ日本の市場に限らずかもしれないけど、両軸受けリールは船縁の竿掛け使ってゴリゴリ巻くので上付けじゃないと売れんのかもしれん。けど、ジギングとかで手持ちでやる釣り用にはあっても良い気がする。実は存在する(orした)けどワシが知らんだけか?(チヌ用のは存在するようだ)

 っていうなかで、簡単に両軸受けリールを下付けで使う裏技がございます。これが、今時のフルフレームな一体構造のリールにはできなくて、横棒(ピラー)をネジ留めしてフレームを構成している従来型PENN両軸機のようなリールだとできる裏技なので、知ってて損はないと思うところ。

 

 やり方は簡単。ハンドルが右なら右で同じにして下に付ける、付けると当然裏返った状態になって、本来ラインが出ていた方向は逆になって竿尻側を向いてしまう。このままでは当然どうにもならない。ここでラインを反対側の竿先側から出すのである。スプールの向きが変わるのでスプール上部からラインは出てこず下から出てくる。その下から出たラインがピラーでフレームを組んでいるリールの場合、ピラーの下の方の隙間から引っ張り出せるのである。リールの本来なら尻の下の方からライン出している格好になる。写真はパーミングできるサイズだけどセネター1/0にモデルになってもらってます。

 この状態では、キャスティングやハンドブレーキは難しい。でもリール下付けにできるし、ラインを逆に巻き替えるとかの面倒くささも無い。「ちょっと待ってくれ、それハンドル逆回転しないといけなくならないか?」とかって頭がこんがらがる人もいるだろう。ハンドルは正回転でいい。裏の裏それはクルリと元通りって感じで、上下ひっくり返して前後ひっくり返して2回裏返しているので元に戻るのである。分かりにくい人は、両軸受けリールをハンドル軸を真ん中にして前方にでんぐり返しさせるイメージで考えて欲しい。ハンドル軸は中心で動いてないから、でんぐり返ししてもハンドルを回す方向は一緒。どうしても腑に落ちない人は手頃な両軸受けリール(丸アブでも回転方向の確認だけならできるはず)で確認して欲しい。

 この裏技、昔から知られてはいたようで、ワシいつどこで知ったのか思い出せないけど、ネットフリックスのドキュメンタリーに「バトルフィッシュ」っていう、ビンナガ漁を追ったシリーズがあって、それぞれ船ごとにいろんな戦略とかがあって面白いんだけど、そのうちの1隻がやや資金潤沢とは言えない感じのチームで、船長と船員の3人でやってて、釣れ始まると一人は冷蔵庫に入って釣った魚を氷に突っ込む作業やら操船を主に担当するので、釣り手の方は2人で釣ってハリ外して冷蔵庫に繋がるレーンに魚を投げ込んでという甲板上の仕事を、バカ釣れしてて間に合わないとき以外は2人でやっつけていた。そうなるといちいちリールをハーネスで吊って悠長にファイトしてる暇はなく、手持ちの竿でガンガン寄せて2人で交互にギャフ掛けしてってやるのに、アグリースティックのタイガーシリーズの黄色い竿に下付けしたパワハン装備のセネター使ってた。アグリータイガーは荒っぽく使えるタフな竿だし、セネターもそういう荒っぽい仕事に充分耐えるプロ御用達の道具である。っていうぐらいに少なくとも本国米国では珍しいってほどでもない運用方法らしい。

 というのもあって、わしデカいサメを船から釣ることを妄想してセネター買ったときには、新しくカーボン一体フレームとかに改良されたタイプじゃなくて、ピラーネジ留め方式の時代のを確保している。デカいの想定でスタンダップロッドと組ませてハーネスで吊る想定の9/0セネターにはライン下巻きにPE10号300m、ナイロン80LB500m巻いた。10キロドラグで800mまで走られても大丈夫なら相当な大物が相手にできるだろうけど、ワシの体力的に800mも10キロドラグで巻き取る体力はもう無いので、もっと小型の機種で十分な気がする。ということで冒頭写真の4/0セネターに下巻き50LBナイロン巻いてPE6号を100m巻いたのも用意した。7キロドラグとかでハーネス使わずジンバルは使って下付けでって考えてるけど、それも体力的にはだいぶしんどいってのが実情かも。で、その他になに写真の「349マスターマリナー」まで確保してるねん。って話だけど、下付け想定ならこのいかにも上付けだとバランス崩しそうなスプール幅の狭い機種も、逆に下向かせたら安定するだろうし、もともと幅が狭いのはレッドコア(鉛芯入り)ラインとかの縒れに弱いラインを想定した深場用らしく”手動レベルワインド”なしでもラインが偏って巻かれることが少ないだろうってことで、あんまり状態も良くないのが送料込みで2500円で出てたので確保して、そもそも船に乗らなくなって久しいので放置していた。せっかくの機会なので分解整備しておく。

 ハンドル周りからなにげに小型機やサーフリールとはちょっと違ってる。まずハンドルそのモノがカウンターバランサーのオモリが付いてるいつもの形状じゃ無い。そして穴の位置が2カ所あってハンドルの長さを2つから選べる。そしてハンドルナットが微妙に大きくていつも使ってる従来型PENN凸凹ナット用のでは小さくて回せない。しかたないので、F師匠に貰ったバイスプライヤーでしっかり挟んで回して外す。バイスプライヤーはハンドル端のネジ巻いて開き具合を調整すると、その開き幅でパチンとしっかり挟んで止まるようになっていて、F師匠はルアー塗装するときにアイはさんで固定して塗ったりするのに便利だよって言ってたけど、確かにぶら下げた不安定に揺れるルアーに塗料塗るよりしっかり固定してある状態で塗った方がやりやすく、良いモノ貰ったと思ってたけど、挟みたい幅でしっかり固定できるっていうのは色々と応用効いて便利。グルグル回りがちなピラーをネジ留めするときにもバイスプライヤーあると塩梅良い。F師匠アザマス!

 さらにハンドル外してスタードラグはずすと、曲げワッシャーとスリーブを挟んで、ドラグを押さえる分厚いワッシャーが露出していて「これ防水とか諸々大丈夫なのか?」って感じだけど、まあドラグに水が入ってもかまわないって割り切れば良いのか?通常だと樹脂で覆われてカバーされていてスリーブがある程度露出しているかたちだからどのみち完全防水ではない。ドラグ自体は3階建ての多板方式なんだけど、ドラグパッドがまた前回の500ジグマスターに引き続き繊維をベークライトっぽい樹脂で固めた謎素材。しかもコレが分厚くて2ミリぐらいはあってちょっとやそっと削れたところでどうってことないって仕様。

 この機種はスプールをつないだ状態でハンドルが逆転する”ナックルバスター”状態にできるんだけど、そのために切り替えレバーがクラッチの他にも1本出ていて、逆転防止の爪をラチェットから持ち上げることができるように、爪の後ろの方にミョーンと伸びた棒が伸びていて、レバーで切り替え可能になっている。そのため逆転防止関係もプレートの上に乗っているので組み付けは簡単になっている。

 あと、深い海から重い仕掛けと魚引っ張り上げてくる関係か、丈夫な設計になっている。フットのネジは片側2個から3個に増やし、ピラーは3カ所にまとめてあるけど2本づつで6本と多くなっていて、ハーネスで吊すためのリングは上部2本のピラーのネジ2本で支える形になっているけど、これがかなりの負荷なのか、ピラーを止める外側の金属リングのねじ山の部分が割れてしまっている。どういう使い方されていたのか知りようもないけど、この構造でも壊れる時は壊れるんだと驚いたと同時に、どんな道具でも無理したら壊れるワケで、PENNといっても過信してはいかんなと思わされた。円高ならセカ○モンでお買いモんすればパーツ売りあるので復活させられるけど、とりあえず、今回下付けで吊さないので表裏2枚の金属リングの1枚割れただけなので、浮いてきてライン挟んだりしないように組んでからウレタン接着剤で留めてお茶を濁しておいた。リング自体は千円2千円で買える部品だけど、送料手数料だけで4~5千円かかってくるのでバカ臭い。使う場面が出てきて良い魚釣って武勲を立てたら褒美として部品交換検討してやるか?コイツのための部品だけでは費用対効果が悪すぎるので、他のモノも買わざるをえない状況になったときについでで買うか?まあ出番も想定されていないのでとりあえず放置。

 っていう感じで分解整備一応終了なんだけど、ちょっと驚いたのがスプールの重さで、スプールの側面に、なんか金型に金属まわりきらなかったような”引け”が見て取れるので、これ重さから言って真鍮鋳造に鉄系の心棒でクロームメッキ掛けているように思う。とにかく重い。投げて釣ることは想定してない機種でむしろ深い海を攻めるために長いライン巻くのでラインの圧でスプールが割れたりしないように丈夫さ重視でクソ重くなっているのだろう。外周のリングの値段とか調べてたときに目に入ってきたけど、このスプール、ニューウェル社で軽量スプールとか作ってるようだ。ニューウェル自社ブランドでもリール作ってるけど、わりとPENNの社外パーツも作ってる。っていうか米国の小規模両軸メーカーはPENNの社外パーツ作りがちな気がする。アキュレートとかもPENNコラボモデルとかがたまに中古市場にも流れている。米本国の釣り人達には、使い慣れて馴染みのある従来型PENN両軸機をカスタムして使うっていう楽しみ方もあるようだ。

 で、せっかくなので下付けが想定されるセネター4/0と349マスターマリナーは竿に付けて、ダンベルぶら下げたりしてテストしてみた。

 竿は、ダイコーの隠れた名竿「サザンクロススティック」の「STC70X」をセネター4/0に「STC70H」を349マスターマリナーにあわせてみた。もう1本転がっているのは「STC66H」と、我が家にはサザンクロスの両軸用は結構在庫している。黒くて太いサザンクロススティックは、グラスか?っていうぐらいに太くて丈夫、そしてしっかり曲がってくれて、バキバキの体に悪い堅すぎるような竿とは違う実に優れた竿だけど、いかんせん黒基調の地味なデザインが、華やかな製品展開で流行し始めたオフショアルアーの世界では実力のわりにはイマイチ受けなかった。ただスピンフィッシャーにしろ、従来型PENN両軸機にしろ、PENNのリールにはよく似合う竿で、ワシ、スピニングももういっちょ持ってるぐらいには気に入ってる。そこそこ中古の球数もあるのでクソ高い道具買いたくなければ非常にいい選択になると思う。

 ダンベルテストは、349マスターマリナーのほうはドラグが5kgが限界で、もっとドラグ値上げたかったらドラグパッドをカーボン製の”HT-100”に換装とかだろうけど、吊さずジンバルぐらいで手持ちだと5kgドラグはワシの方の限界っぽくまあこんなもんで良いのかもしれない。5kgでもしっかり曲がってくれるのは腰の負担が少なくて爺さん助かる。あらいぐまラスカル。セネター4/0の方は5キロ余裕。でもワシの方が余裕じゃない。この組み合わせで出すなら、筋トレは必須だろうな。どちらの組み合わせも重いリールとラインガイドが下側に付いているので、保持するのにグラついたりの不具合はなく良い感じではあった。

 ワシが使うとなると、岸壁泳がせで77シーホークで御しきれない魚が掛かるようになって、より強い道具でってなったときぐらいが想定されるけど、多分77シーホークの戦闘能力ってかなり高くて、10キロの根魚上手くすれば上がるつもりでいるので、それ以上ってなんね?って話ではある。そうするとワシがこの裏技を使う機会はないのかもしれない。だれかこの記事を読んで、やってみて自分の技術にしてこの古くから引き継がれてきたと思われる伝統ある裏技を次代につないでいってくれると嬉しい。どっか頭の片隅にしまっておいて、知識として知っておけば、何かの時に役に立つかもしれないし、たたないかもしれないので、憶えていってくれると嬉しいです。

0 件のコメント:

コメントを投稿